相続手続きの流れを教えてもらえますか?
1 相続に必要な手続と期限のまとめ
相続において必要な手続はたくさんあり、手続ごとに期限が決まっています。
そこで、まず、手続と期限を一覧でまとめました。
(原則は亡くなった日を0日目とする)
⑴ 7日以内
- ① 死亡診断書・死体検案書の取得
- ② 死亡届の提出
- ③ 死体埋葬火葬許可証の取得
⑵ 10日以内
- ④ 厚生年金受給停止の手続
- ⑤ 厚生年金受給権者死亡届の提出
⑶ 14日以内
- ⑥ 国民年金受給停止の手続き
- ⑦ 国民年金受給権者死亡届の提出
- ⑧ 国民健康保険資格喪失届
- ⑨ 国民健康保険証の返却
- ⑩ 介護保険の資格喪失届
- ⑪ 世帯主の変更届
⑷ 3か月以内
- ⑫ 相続放棄または限定承認
- ⑬ 相続の承認又は放棄の期間の伸長
⑸ 4か月以内
- ⑭ 準確定申告
⑹ 10か月以内
- ⑮ 相続税の申告
⑺ 1年以内
- ⑯ 遺留分侵害額請求・遺留分減殺請求
⑻ 2年以内
- ⑰ 葬祭費・埋葬料の請求
- ⑱ 高額療養費の払戻し
- ⑲ 死亡一時金の請求
⑼ 3年以内
- ⑳ 生命保険の請求
⑽ 5年以内
- ㉑ 遺族年金の受給申請
⑾ その他の手続き
- ㉒ 遺言書の検認
- ㉓ 遺産分割協議
2 手続ごとに必要な書類や提出先
⑴ 7日以内に必要な手続
- ① 死亡診断書(死体検案書)の取得
-
死亡診断書(死体検案書)とは、医師が、故人が死亡したことを証明する書類です。
今後の様々な手続きに必要になる重要な書類です。
この書類がないと、葬儀や火葬といった手続きを進めることができません。
書類を作成する医師が生前に診察したことのある人が、その病気やケガが原因で亡くなった場合には、死亡診断書となります。
一方で、書類を作成する医師が診察したことのない人である場合には死体検案書が作成されます。
●取得手続
・病院で亡くなった場合
→担当医師が死亡診断書を発行してくれます。特に手続きはいりません。
・自宅で亡くなった場合
▶病院で診察を受けてから24時間以内+死因が診察を受けたケガや病気
→主治医に連絡
主治医が発行します。特別な手続きは必要ありません。
▶病院で診察を受けてから24時間以降+死因が診察を受けたケガや病気
→主治医に連絡
主治医が死後診察を行ったうえで、発行します。
・それ以外の場合
→主治医に連絡。
主治医がいない場合は119番に連絡。
死体検案の後に死体検案書が発行されます。
- ② 死亡届の提出
-
死体検案書と同じ用紙の左ページにあります。
・亡くなった方の死亡地
・亡くなった方の本籍地
・届出人の所在地
のいずれかの役所に提出します。
用紙は、市区町村役場や病院でもらえます。
届け出ることができる人は
・親族、同居人、家主、地主、家屋管理人、土地管理人、後見人
などです。
死亡から7日以内に届出がないと、5万円以下の過料を支払わなければならないリスクがあるので注意が必要です。
- ③ 死体埋葬火葬許可証の取得
-
死亡届と同時に火埋葬許可申請書を役所に提出します。
これがないと、火葬を行うことができません。
取得したら、葬儀業者に渡してください。
⑵ 10日以内に必要な手続
- ④ 厚生年金の受給停止の手続
- ⑤ 厚生年金受給権者死亡届の提出
-
お住まいの地域の社会保険事務所で行うことができます。
必要な資料としては、年金証書、死亡診断書(または死体埋葬火葬許可書)、亡くなった方の戸籍謄本、亡くなった方と年金受給者の住民票が必要となります。
また、受け取っていない年金が残っている場合には、一緒に給付の請求も行ってください。
年金の支払いが2か月ごとにされ、この受給停止の手続をしてしまうと次回の支払いはされないため、前回の支払い日~死亡日の期間の本来貰えるはずだった年金の支払いが受けられなくなってしまうためです。
また、国民年金の手続と異なり、期限が4日短いので(厚生:10日、国民:14日)、注意が必要です。
⑶ 14日以内に必要な手続
- ⑥ 国民年金の受給停止
- ⑦ 国民年金受給権者死亡届
-
厚生年金の手続と同じで、社会保険事務所に行くとできます。
厚生年金より期限は少し長いですが、必要書類も変わらないため、厚生年金の手続と一緒にやってしまうのがよいでしょう。
- ⑧ 国民健康保険資格喪失届
- ⑨ 国民健康保険証の返却
-
亡くなった方が国民健康保険に加入していた場合、保険資格喪失届の提出と保険証の返却をする必要があります。
また、75歳以上の方が亡くなった場合は、後期高齢者医療資格喪失届をあわせて提出しなければなりません。
届か出は、亡くなった人の住所地の市役所・区役所になります。
手続の際は、保険証と、死亡届や戸籍謄本等の死亡を証明できる資料、手続をする方の身分証明書(運転免許証、パスポート、住基カードなど)、印鑑などが必要となります。
- ⑩ 介護保険の資格喪失届
-
こちらは、亡くなった方が、介護保険に加入していた場合に行わなければならない手続です。
届出先は、健康保険と同じく、市役所や区役所になります。
また、要介護認定を受けていた場合は、介護保険者証も返還する必要があります。
- ⑪ 世帯主の変更届
-
世帯主が亡くなったときに、世帯に15歳以上の人が2人以上残っている場合に提出が必要になります。
届出先は亡くなった方の住所地の市役所などになります。
死亡届と一緒に行うのが一般的です。
手続に必要な書類は、
・本人確認書類(運転免許証・パスポート・マイナンバーカードなど)
・届出人の印鑑
・国民健康保険証
になります。
⑷ 3か月以内に必要な手続
- ⑫ 相続放棄または限定承認
- ⑬ 相続の承認又は放棄の期間の伸長
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相続をすると、亡くなった方の財産だけでなく、負債・借金も引き継いでしまいます。
この点、相続放棄をすると財産をもらえない代わりに、借金も一切引き継がずに済みます。
限定承認の場合は、借金の支払いを相続した財産の範囲でのみすることになります。
これらの手続は、3か月以内に亡くなった方の住所地の家庭裁判所に申立の手続を行わなければなりません。
この3か月というのは、亡くなったのを知った時から3か月であるため、仮に、命日から3か月を過ぎていても、亡くなった時より後であれば相続放棄をできる可能性があります。
また、この期間は延期をすることができますが、これも3か月以内に家庭裁判所に申立の手続を行う必要があります。
相続放棄は亡くなった方の財産を処分してしまうとできなくなってしまうため、もし相続放棄を検討しているのであれば、亡くなった方のお金や持ち物を使ったり売ったりしてはいけません。
相続放棄については、当サイトの「相続放棄」ページも併せてご覧ください。
⑸ 4か月以内に必要な手続
- ⑭ 準確定申告
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収入がある方で本来であれば確定申告をしなければならない方が亡くなった場合、年度末の確定申告ができなくなります。
この時に行うものが、準確定申告になります。
この手続は、確定申告ができなくなった方に代わり、相続人が確定申告を行うものです。
準確定申告の対象となるのは、亡くなった年の1月1日から亡くなった日までに発生した所得です。
この手続は、他の相続手続と比べると手間と時間がかかるため、期限内に行うことができるよう注意が必要です。
⑹ 10か月以内に必要な手続
- ⑮ 相続税の申告
-
遺産が基礎控除額を超える場合には、相続税の申告を税務署に行う必要があります。
この基礎控除額は
3000万円+(法定相続人の数)×600万円
の計算式で求められます。
例)お父様が亡くなり、奥様とお子様2人が相続人となった場合は
3000万円+3人×600万円=4800万円
が基礎控除額となります。
この場合、お父様の財産が4800万円以下の場合には申告を行う必要はありません。
一方で、相続財産が4800万円を超える場合には相続税の申告をしなければなりません。
仮に、相続税の申告をしなければならないのに申告しないまま10か月を過ぎてしまうと、延滞税や利子税を課される可能性もあるため、早めに専門家に相談して準備をしておく必要があります。
なお、余談となりますが、相続税の申告は遺産分割協議によって取得した財産の価格に応じて相続人が支払うべき金額が決まります。
そのため、遺産分割協議を10か月以内に済ませて相続税申告に臨むのが理想的ではありますが、相続でそれぞれがいくらもらうかで揉めていると10か月で解決しないことも多くあります。
このような場合は、死亡から10か月のときは、とりあえず法定相続分で税額を計算して申告し、税金を払っておき、後で遺産分割協議が終わったら修正申告を行うこととなります。
その際、税金が減額される特例を将来利用する場合は10か月以内にやっておかなければならない手続等があるため注意が必要です。
相続税申告には、そもそも相続税を支払う必要があるのか、財産はどれくらいあり相続人はいくら支払う必要があるのか、追加で特別な手続きは必要ないかなど、専門的な知識が必要となるため、相続が発生したら早い段階で一度専門家に相談するのがよいでしょう。
⑺ 1年以内に必要な手続
- ⑯ 遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)
-
遺留分というのは、生前の贈与や遺言書などにより相続人の貰う遺産が少なくなったとしても、最低限は遺産がもらえることが保障されている制度です。
例) 「全ての遺産を長男に相続させる」という遺言があったとしても、何ももらえなかった次男は、遺留分で保障されている範囲については長男に遺産を分けるように請求ができます。
この手続は、法律上は、他の相続人へ遺留分請求をすることを伝えるだかで行えるものですが、実際には遺留分の金額でもめることが多く、専門家が代わりに行ったり家庭裁判所での話し合いになったりすることが多いです。
なお、この1年という期間は、亡くなったことを知った日から1年であるため、死亡日から1年を過ぎていても請求することができる場合があります。
⑻ 2年以内に必要な手続
- ⑰ 葬祭費、埋葬費の請求
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葬儀をした人は、亡くなった方が健康保険や国民健康保険に加入していれば、死亡から2年以内に請求することで、葬祭費や埋葬費として3~5万円程度をもらうことができます。
●手続先
・国民健康保険の場合
→市役所の保険年金課
・健康保険の場合
→全国保険協会
- ⑱ 高額療養費の払戻し
-
健康保険には、1か月にかかった医療費が高額になった場合、一定の金額を超えた分が払い戻される高額療養費制度というものがあります。
この高額療養費の払戻しは、亡くなった後でも相続人が請求することができます。
●手続先
・保険証に、「○○健康保険組合」、「全国健康保険協会」、「○○共済組合」とある方
→ 記載されている保険組合
・保険証に、「○○国民健康保険組合」とある方
→ 記載されている国民健康保険組合
・保険証に、市区町村名が書かれている方
→ 記載されている市区町村の国民健康保険の窓口
・保険証に、「○○後期高齢者医療広域連合」とある方
→ 記載されている後期高齢者医療広域連合
高額療養費の申請期限は、受診した日の翌月から2年であるため、葬祭費・埋葬費の申請期限(亡くなった日から2年)よりは短くなる可能性があります。診察時のレシートなどを確認して正確な期限に注意してください。
- ⑲ 死亡一時金の請求
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国民年金の保険料を36か月以上納めていた方が亡くなった場合、死亡一時金というものが支払われます。
ただし、亡くなった方が、老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取っていた場合は、死亡一時金は受け取れません。
死亡一時金を受け取ることができるのは、亡くなった方と生計を同じくしていた遺族で、「配偶者→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹」のように優先順位があります。
支払われる金額は、保険料納付期間に応じて12万円~32万円と変わります。
死亡一時金の申請手続きは、市役所、年金事務所などになります。
⑼ 3年以内に必要な手続
- ⑳ 生命保険金の請求
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亡くなった方に対して生命保険がかけられていた場合、生命保険が受け取れます。
これは保険受取人に指定されている人が保険会社に対して請求します。
自分が受取人か分からない場合もあるでしょうから、まずは、亡くなった方のご自宅にある資料等から保険会社に連絡を取ってみるのがよいでしょう。
請求期限は保険会社ごとに異なるため、個別の保険会社に確認を取る必要がありますが、3年を期限としている保険会社が多いです。
⑽ 5年以内に必要な手続
- ㉑ 遺族年金の受給申請
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遺族年金とは、国民年金や厚生年金保険の加入者が亡くなった時に、亡くなった方の収入で生活していた遺族が受け取ることができる年金です。
「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、亡くなった方の年金の納付に応じて、いずれか又は両方の年金が支給されます。
申請に必要な用紙は、市役所や年金事務所でもらえます。
・遺族基礎年金
→18歳未満の子どものいる配偶者か子どもが受け取ることができます。
申請先としては、市役所・区役所等になります。
・遺族厚生年金
→妻、子、孫、55歳以上の夫・父母・祖父母が受け取ることができます。
申請先としては、年金事務所または年金相談センターになります。
⑾ 明確な期限はないが必要な手続
- ㉒ 遺言書の検認
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亡くなった方が自筆証書遺言を作成されていた場合、裁判所での検認手続が必要です。
これは、遺言書の保管者か遺言書を最初に発見した相続人が行わなければなりません。
検認を行う裁判所は、亡くなった方の住所地の家庭裁判所になります。
申立には、
・申立書
・遺言者の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・既に亡くなっている子や親がいる場合の、その人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
などが必要となります。
全ての戸籍の収集を漏れなく行うことは難しいため、専門家に依頼することもご検討ください。
また、申立書は家庭裁判所のホームページからダウンロードすることはできますが、もし戸籍収集を専門家依頼するなら、併せてお願いしてしまうのがよいでしょう。
参考リンク:裁判所・遺言書の検認の申立書
- ㉓ 遺産分割協議
-
相続が発生したら、亡くなった方の財産を分けなければいけません。
この手続は相続人同士で話し合うというもので、書類を作成したり市役所などの公的機関に何かを提出したりするものではありません。
もっとも、実務上、遺産分割協議書というものを作るのが一般的です。
これはなぜかといいますと、この遺産分割協議書がないと、せっかく遺産を相続しても、預金を引き出したり、土地を売却したりすることができないからです。
相続でも最も争いになる部分であり、弁護士を立てて行うことも多いです。
3 相続は早めに専門家へ
ご紹介してきたように、相続が発生した場合には必要な手続きがたくさんあります。
この他にも、ご葬儀や身辺整理などやることは多く、お忙しくなるとは思います。
しかしながら、必要な手続の中には期限が定められているものが多く、その期限も1~2週間と短いものもあります。
また、手続によっては専門家の関与が必要なものも多いです。
そのため、相続がありましたら、まずは何をすればよいかも含めて、一度、専門家にご相談することをおすすめします。
相続を円満に解決したいのですが,弁護士に依頼するとトラブルが大きくなりませんか? 相続税の税務調査についてもお願いできますか?