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生前贈与についても遺留分を請求できるか

  • 文責:代表 弁護士 西尾有司
  • 最終更新日:2025年2月18日

1 生前贈与が遺留分請求の対象になるかどうかはケースバイケースである

遺言により、特定の人に対して、相続財産の全部や、相続財産の大部分を相続させるまたは遺贈するものとされている場合、相続財産を相続することができなかった相続人は、遺留分を請求することができる可能性があります。

遺留分は、一部の相続人に認められた、相続についての最低限の権利として位置づけられますので、遺言により相続財産を相続できなかったとしても、遺留分の要件を満たせば、遺留分に相当する金銭の支払を受けることができることとなっています。

それでは、被相続人が、遺言ではなく、生前に多額の生前贈与を行うものとしていたときはどうでしょうか?

この場合も、生前贈与がなされたことにより、相続人がほとんど財産を引き継ぐことができないこととなってしまったときは、相続についての最低限の権利が侵害されたと考えられますので、遺留分の請求をすることができる可能性があります。

ただ、遺言による相続の場合と異なり、生前贈与が遺留分の対象にできるかどうかについては、一定の制限が存在します。

このため、生前贈与が遺留分の対象になるかどうかは、ケースバイケースであると言うことができます。

ここでは、遺言の場合と異なり、生前贈与が遺留分の対象になる場合にはどのような制限が存在するかについて、説明したいと思います。

2 生前贈与が遺留分算定の基礎となる財産に含まれるか

まず、生前贈与が遺留分算定の基礎となる財産に含まれるかどうかという問題があります。

遺留分は、遺留分算定の基礎となる財産に、遺留分割合を掛け算することにより、計算されます。

相続財産は遺留分算定の基礎となる財産に含まれますが、生前贈与が遺留分算定の基礎となる財産に含まれるのは、一定の制限が存在します。

まず、相続人に対する生前贈与は、被相続人が亡くなった日から遡って10年間に贈与されて財産に限り、遺留分算定の基礎となる財産に含まれます。

次に、相続人ではない人に対する生前贈与は、被相続人が亡くなった日から遡って1年間に贈与された財産に限り、遺留分算定の基礎となる財産に含まれます。

裏返せば、相続人に対して10年超前に贈与された財産、相続人ではない人に対して1年超前に贈与された財産については、遺留分算定の基礎とはならないこととなります。

ただし、上記の基準で遺留分算定の基礎にならないこととなる贈与であっても、例外的に、遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与については、遺留分算定の基礎となる財産に含まれることとなります。

もっとも、遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与とは、贈与した人が「贈与が遺留分を侵害すること」を知っていただけでなく、贈与を受けた人も「贈与が遺留分を侵害すること」を知っていたものである必要があるとされています。

このため、遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与に該当するのは、かなり限定されたケースになります。

以上の基準で、生前贈与が遺留分算定の基礎となる財産に含まることとなったときは、計算上、「該当する生前贈与の額×遺留分割合」についても、遺留分に加算して計算することかできることとなります。

つまり、遺留分の金額が、生前贈与の分だけ増額されることとなります。

3 生前贈与を受けた人に対して遺留分の請求ができるか

次に、生前贈与を受けた人に対して遺留分の請求ができるかについて、説明したいと思います。

先述の要件を満たし、生前贈与の分だけ遺留分の金額が増額されるとしても、誰に対して遺留分の請求をすることができるかは、別に検討する必要があります。

まず、相続財産がほとんどなく、多額の生前贈与のみがなされている場合には、多額の生前贈与を受けた人に対し、遺留分に相当する金銭の支払を求めることができます。

次に、相続財産が存在し、特定の人に対して全部もしくは大部分を相続させるまたは遺贈することとされている一方、多額の生前贈与も存在する場合はどうなるのでしょうか?

この場合は、まず、相続または遺贈を受けた人に対し、遺留分に相当する金銭の支払を求めることができ、計算上これだけでは遺留分額に満たない場合に限り、贈与を受けた人に対し、遺留分に相当する金銭の支払を求めることができます。

このように、まとまった相続財産もまとまった贈与財産もある場合は、まずは相続を受けた人に対して遺留分侵害額請求を行い、次に贈与を受けた人に対して遺留分侵害額請求を行うこととなります。

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