相続税申告
どうして相続税を払い過ぎしてしまうのか
1 相続税の払い過ぎとは
⑴ 申告納税制度
相続税では、申告納税の制度がとられています。
申告納税とは、税務署が相続税の計算をするのではなく、相続人自身または相続人から委託を受けた税理士が相続税の計算を行って申告し、計算したとおりの金額を納付する制度のことをいいます。
このように、相続税では、まずは、自主的に申告した金額を納付する制度がとられています。
⑵ 本来の税額とのずれが生じている場合
自主的に申告した金額が本来の税額より少ない場合は、税務署から指摘がなされ、追加で納付を行うこととなります。
一方で、自主的に申告した金額が本来の税額より多い場合は、税務署は、必ずしも指摘をするわけではありません。
相続人が自主的に申告した金額である以上、本来の税額より多い金額であっても、基本的には是認されるべきであると考えられるからです。
このような理由から、税金については、本来の税額よりも多い金額で申告した場合は、修正がなされず、払い過ぎのまま終わってしまうことが起こり得るのです。
相続税は、他の税目と比較しても、このような払い過ぎが起こりやすいです。
ここでは、相続税で払い過ぎが起こりやすい理由について、説明したいと思います。
2 ルールが複雑多岐であること
相続税の計算に関するルールは、複雑多岐なものになっています。
このため、個々の申告で、ルールを適切に適用できるかどうかが大きく異なってくることがあり、その結果、算定される税額も大きく異なってしまうこととなります。
例えば、土地の評価方法について見てみましょう。
その土地が路線価地域だった場合、評価をするには、路線価に地積を乗じる計算方法を用いることとなっています。
もっとも、実際には、土地の道路への接し方、土地の形状などにより、間口狭小補正、奥行補正、奥行長大補正、不整形地補正などを用い、土地の評価額を減額することができます。
さらに、この点は税理士が作成した申告書でも見逃されがちですが、容積率が異なる部分がある場合、土砂災害特別警戒区域が含まれる場合、セットバックの対象になる場合などには、公法規制の存在を理由として、土地の評価額を減額することができます。
このようなルールをどこまで適用できるかにより、土地の評価額は大きく異なることがあり、算出される税額も大きく異なる可能性があります。
参考リンク:国税庁・容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価(2)
3 解釈に幅があること
相続税の計算に関するルールを把握していたとしても、ルールをどのように当てはめるかは、個々の申告で異なってくることがあります。
特に、ルールの解釈に幅がある場合は注意が必要です。
このような場合には、税務署から過少申告の指摘がなされることをおそれ、大きめの金額で申告してしまうこともありがちです。
このような場面では、異なる解釈が可能ではないかをきちんと検討しなければ、本来の税額よりも大きい金額で申告してしまうことになりかねません。
例えば、市街化調整区域内の雑種地では、建物の建築が可能であるかどうか、可能であるとしてもどのような種類までの建物の建築が可能であるかにより、評価額を30%から50%減額することができるとされています。
参考リンク:国税庁・市街化調整区域内の雑種地の評価
このような場合には、都市計画法34条の審査会基準などをきちんと精査し、建物の建築の制限について、検討を尽くすべきだと思います。
このような検討を行うことなく、建物の建築の制限がない前提で申告を行ってしまうと、土地の評価額が増額され、納付する相続税も増大してしまう可能性も生じてしまいます。
以上のように、相続税の計算は複雑で、ご自身で行うと相続税を払いすぎる可能性などもあります。
そのため、相続にかかる税金を申告する際は、相続税を得意とする専門家に相談することをおすすめします。